ネットネット株投資の巨人 ウォルターシュロス
ネットネット株で大成功を収めたアメリカ人がいる。ウォルターシュロスという人だ。ウォーレンバフェットも、投資人生の初期ではネットネット株を中心に株取引をしていたが、途中から優良大型株中心の投資方法へ切り替えている。若いころを振り返り、ウォーレンバフェットは、あの頃は「シケモク投資」をしていたと述懐している。
シケモク投資というのは、たばこの吸い殻でも、まだ少しは吸えるだろうという意味である。ネットネット株はおおむね業績が悪く、一般投資家から見放されている株を考えることもできる。だけれども、まだ少しは利益を吸い上げることは出来るだろうという意味だ。
では、ネットネット株投資はたいして儲からないのではないかという疑問が起こるが、バフェットさんは当時を振り返り、あの投資方法は、結構うまみがあるんだ、とも述べている。
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その世界的に著名な投資家にまでになったバフェットさんが、ネットネット株投資家として一目置いているのが、ウォルターシュロスである。シュロスさんは、バフェットさんとは若いころからの知り合いである。バフェットさんはベンジャミン・グレアムというコロンビア大学院(Columbia Business Schoo)でファイナンスを教えている教授の本に出会い、感銘して彼の元で勉強するためにコロンビアビジネススクールに入学したという経緯がある。シュロスさんは、高校卒だがグレアム教授が運用する投資会社に勤め、バフェットとはともにそこで投資手法を働きながら学んだという間柄である。
グレアムさんの本「証券分析」
バフェットさんがネットネット株投資から足を洗って、大型優良株への投資へ舵を切ったのに対して、シュロスさんは自身の株式運用会社を立ち上げて、そこで顧客を募り、顧客の資金をネットネット株中心に運用していた。その運用成績がすこぶる良かったのだ。
ネットネット株中心に200銘柄へ分散投資
ネットネット株を中心に投資をする、という投資手法だけでも、ウォール街では異端である。シュロスさんの場合、異端なのはそれだけではない。いつでもポートフォリオには100~200の銘柄が組み込まれていた。少ないときは50強程度の銘柄に集中していたと述懐しているが、それでも普通に考えたら十分多い。
ネットネット株200銘柄に分散する理由
シュロスさんがインタビューされたとき、なぜ200銘柄近くもの銘柄に分散投資するのか、その理由を説明している。
- 自分は財務諸表だけを頼りに投資先企業を分析し、銘柄選定を行っている。
- 特に分析で重視するのは、その会社が保有する資産である。
- 資産を中心に会社の価値を計算する一方、その会社の将来的な業績については予想しない。
- その会社の将来がどうなるのか、自分は予想できないし、予想しない。
- また、自分が割安だと思っている資産を抱える会社が、一般投資家にいつ評価されて株価が上昇するか、判断できない。
- そのため、より多くの銘柄に投資することにより、どの会社の株価が上がっても取りこぼしのないようにしたい。
- また、分散することでリスクも分散することができる。一向に株価が上がらない場合もあれば、場合によっては何らかの事故により株価が更に下落することもあり得る。
ネットネット株の評価方法 ウォルターシュロスの場合
このようにみると、ウォルターシュロスさんは、非常に保守的な考え方の持ち主で、かなり慎重にリスクを避けながら、ネットネット株へ投資していたようである。まあ、資産に対して割安な株というのがネットネット株なのだから、もともと慎重な性格の持ち主なのだろう。
ネットネット株への投資で年率21%
ちなみに、ウォルターシュロスさんの28年間の運用成績は、年率21%である。これはウォーレンバフェットと同レベルの、非常に高い利回りになる。私の資金もついでに運用してくださいと言いたくなるような利回りだ。
ウォーレンバフェットによるウォルターシュロス評
シュロスさんがこれだけ素晴らしい投資成績を収めていることを、バフェットさんも絶賛している。バフェットさんが毎年公表していいる「株主への手紙」でも、次のように書いている。
最後に、ウォール街の一人の善良な人について話したいと思います。私の長年の友人で昨年90歳で亡くなったウォルターシュロスです。1956年から2002年までウォルターは、驚くほど成功した投資パートナーシップを運用しました。彼は投資家に利益をもたらすことができなかった年は、投資家から一銭もサービス料金を受け取りませんでした。50年前の話ですが、正直で有能な投資マネジャーを探していたルイス家に、私が唯一推薦した人物がウォルターシュロスでした。
ウォルターシュロスはビジネススクール(大学院)にも大学にも通いませんでした。1956年当時の彼の事務所には一つのファイルキャビネットがあるだけでした。2002年にはキャビネットの数は4つになっていましたけどね。ウォルターシュロスは秘書も雇わず事務員も経理の人間も雇いませんでした。彼の唯一の同僚は実の息子エドウィンだけでした。エドウィンはノースカロライナ大学の卒業生です。ウォルターもエドウィンも株価についてのインサイダー情報には全く近づきませんでした。実際のところ、2人は「外部」情報を控えめに使うだけでした。そしてたいていの場合ベンジャミングレアムでウォルターが働いていた時に学んだ単純な統計手法を使って銘柄を選別していました。1989年にウォルターとエドウィンがOutstanding Investors Digest にインタビューをされたときに、エドウィンは次のような受け答えをしています。「ご自身たちの投資手法を要約するとどのようになりますか?」「安く株を買うことに努めています。」
実質的なリスクを伴わない戦略に従って、ウォルターは47年間のパートナーシップの期間中でS&P 500を劇的に上回る成果を上げました。特に注目に値するのは、ウォルターはこの記録を1000もの銘柄に投資することで達成したことです。その銘柄の多くは精彩を欠いた種類の銘柄です。いくつかの勝ち組銘柄は彼の成功には組み込まれていません。ウォルターが達成した記録はチャンスによって得られたものではないことは確かです。
私が最初にウォルターの素晴らしい業績について公表したのは1984年のことです。その当時、市場効率説がビジネススクールで教えられていました。市場は効率的であり、だれも市場平均を打ち負かすことはできないという理論ですが、ウォルターの業績は明らかにこの説に反します。
バフェットさんの公認自伝として本「スノーボール」
バフェットさんの株主への手紙
ウォルターシュロスによるウォーレンバフェット評
ウォーレンバフェットがウォルターシュロスの投資手法と成績を絶賛するのと同時に、シュロスさんもバフェットさんのことを絶賛している。そしてバフェットを目指す投資家は多いだろうが、誰もが彼のようになれるわけではないとして、自らの限界をわきまえる大切さを語っている。ここに、彼が多くの銘柄に投資している理由も隠されている。
シュロスさんはバフェットさんについて次のように語っている。
「心理学的には(少数銘柄へ投資を集中するのは)無理だし、ウォーレンは優秀だし、彼は優れたアナリストであるだけでなく、ビジネスの判断力も非常に優れている。ウォーレンは人を見る目が非常に優れており、ビジネスを見る目も非常に優れている。ウォーレンのやり方に問題ない。それは私たちにはできないことであり、私たちは自らの能力の限界を知る必要がある。」
ネットネット株が枯渇しても同じ発想で投資を続ける
米国では、ネットネット株は1970年代にはほぼ枯渇してしまったと言われている。それ以降ネットネット株はほぼない状況で現在に至っている。そんな投資環境の中で、シュロスさんはどのように投資を続けていたのだろうか。
ネットネット株が枯渇しても、シュロスさんはネットネット株を評価した方法を踏襲して、株の売買を行っていた。その売買の手法について、1994年シュロスは彼の投資哲学を一枚のメモ紙にまとめている。
ネットネット株を評価した手法 ウォルターシュロスの哲学
- 価格は価値に関連して使うべき最も重要な要因です。
- 会社の価値を評価するよう努めなさい。株は事業の一部であり、紙きれでないことを忘れないように。
- 事業の価値を評価するうえで簿価を使うことから始めなさい。
- 負債が株主資本の100%でないことを確認しなさい。
- 辛抱しなさい。株価はすぐには上がらない。
- 急な値動きをみて株を買うことをしないように。そういうことはもし可能としてもプロに任せておきなさい。そして悪いニュースで株を売らないように。
- 自分一人であることを恐れずに、ただし自分の判断が正しいと確信を持ちなさい。100%確実ということはあり得ません。しかし、自分の考えに弱い部分がないか点検しなさい。
- 一度判断を下したなら、自分を確信する勇気を持ちなさい。
- 投資哲学を持ち、それに従って行動するようにしなさい。上記で書いたことは私が成功してきた方法です。
- 急いで売ってはならない。株価が妥当な価格にまで上がったら、売ってもよいが、株価が50%上昇することはよくあることです。よく売って利益を確定しなさいといいます。売る前に会社の価値を再度評価し、会社の簿価に比べてどの位置で株を売るのかを見極めなさい。株式市場の状況にも注意を払いなさい。株式市場は歴史的に天井圏なのか、市場参加者は楽観的なのかなど。
- 株を買う時は、過去数年の底値圏で買うことが私には役立ちました。株は125%も上がることもあれば、そこから60%まで下がり、そして下がったので株価は魅力的に見えます。しかし、3年前その株は20%の位置で売買されていました。
- 利益を見て株を買うより、資産が割安だから買うようにしなさい。利益は短期間に劇的に変化することもあり得ます。通常資産はゆっくりと変化します。利益を見て株を買う場合は、その会社について熟知しておく必要があります。
- 尊敬する人の意見を聞きなさい。これは、その意見を受け入れるべきと言っているのではありません。自分のお金であることを忘れないように。一般的に置か円を作るより、それを蓄えておくほうが難しいのです。
- 判断が感情に振り回されないように注意しなさい。株の売買においては、恐怖と欲望が最も悪い感情です。
- 複利の仕組みを忘れないように。例えば12%の年利を得ることができるなら、そのお金を再投資すれば、税金を無視すれば6年でお金は2倍になります。72の法則を覚えておきなさい。72で数字を割ると、何年で手元のお金が2倍になるかが計算できます。
- 債権より株に投資しなさい。債権は価格上昇に上限があり、インフレが購買力をそぐからです。
- 借金をして投資するのは危険です。
ネットネット株の名手 ウォルターシュロスをご紹介した。バフェットを感嘆させるほどの投資家は、ネットネット株といういわば2流の会社の株を中心に取引をし、素晴らしい投資成績を実現した。何に投資するかではなく、自分の投資哲学をもって、どのように投資するかが重要なのかもしれない。
関連本:グレアムさんの本「証券分析」
バフェットさんの公認自伝として本「スノーボール」
バフェットさんの株主への手紙
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